剣の八【感想】ジョン・ディクスン・カー

発表年:1934年

作者:ジョン・ディクスン・カー

シリーズ:ギデオン・フェル博士3

 

まずは

粗あらすじ

ポルターガイストが出ると噂されるスタンディッシュ大佐の屋敷で犯罪研究家の主教がご乱行。その主教の予告通り、隣家でとてつもない謎を孕んだ事件が発生する。現場に残されていた、アスタリスクの形に配された剣が描かれたタロットカードが意味するものとは?

 


お世辞にも素晴らしいとは言えない出来なのではないでしょうか。

個人的には掴みどころのない、という言葉がぴったりで、事件の発端から探偵(たち)の推理にいたるまで、モヤモヤした雰囲気が全体に漂っています。

これが意図的に生み出されたものなら、結末部で鮮やかな解決編を読めればすっきりできるはずなのですが、あまりカタルシスも感じません。

たしかに意外性は抜群で、犯人へと繋がる手がかりの配置も見事なのに、何故でしょうか。

 

考えられる要因の一つは、多すぎる素人探偵たちかもしれません。“探偵がいっぱい”状態に気付いたのが、解説を読んだ後だったということもありますが、彼らの推理合戦を素直に楽しめませんでした。

彼らの推理があまり真相に直結していなかった感があるのも気になります。結局はフェル博士の独壇場で、素人探偵たちを配した効果があまりないように思えました。

 

もうひとつのもやもやの要因は、興味をそそる手がかりになるはずの『剣の八』に違いありません。

 

まったくのナンセンスという訳ではないのですが、どうも作中の手がかりの中にあって弱すぎはしませんか。せっかく魅力的なワードなのに、中盤であっさり解き明かされてしまっては、やや突き放された感じを受けるのも仕様がありません。

もう一つの犯人へと繋がるヒントがさらに魅力的なだけに残念な気もします。

 

密室トリックの方も、事件を構築するかなり重要なトリックであるはずが、これまたサラッと明かされ肩透かしを食らってしまいました(けっこう好き)。

 

しかしながら、終盤の手に汗握るスリリングな展開から犯人の登場までは勢いがあって面白く、特に最終章のメタ要素がユーモラスで、持ち直したかに思えます。キャラクターの書き分けが不十分だったり、カーらしさというのもあまり出ていない作品ではあるのですが、光を放つ部分もなくはない。

総じて惜しい感じの一作でした。

 

では!