僕の猫舎

主に海外ミステリの感想を綴るブログです。

荘厳で重厚な傑作長編【感想】『ナイン・テイラーズ』ドロシー・L・セイヤーズ

どこから褒めたらいいか迷うくらい良い。

なんかすいません。

 

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

 

 

 

発表年:1934年

作者:ドロシー・L・セイヤーズ

シリーズ:ピーター・ウィムジィ卿9

 

   本作は、日本の推理小説における第一人者である江戸川乱歩が、黄金時代の推理小説ベスト10の第10位に挙げた程の作品、といえばどれほど有名な作品かわかります。

   私自身、推理小説にのめり込み始めたころ、果たしてどんな作品が有名なのだろうかと調べた結果、クリスティの『アクロイド殺し』やクロフツの『』と並んで本作が取り上げられており、今思えば本書がミステリを読み続ける原動力になっていたと思います。

   そんな思い入れが強い作品だからこそ、本作は公平な目線で感想を書きたいのですが、少し不安要素も…。

 

   当ブログでは、ピーター卿のシリーズは前8作全て紹介しているのですが、客観的に見て少し贔屓目に書いてしまっているのではないかと思うのです。たぶんセイヤーズの作風にシンパシーを感じる、というか肌馴染が良いというか、どこか親近感や安心感を感じるせいです。

今回は極力そういった要素は排除して書こうと思っていたのですが、冒頭の一文目から、大好き感が全面に出てしまい大変心苦しいところです。読者の皆様にはご容赦いただきたいと思います。

 


まずは粗あらすじ

イングランド東部の雪深い小村付近で運悪く車ごと堤防から落下してしまったピーター卿と従僕のバンター。フェンチャーチ・セント・ポール教会の時を告げる鐘の音に誘われ村に滞在することになったピーター卿は、ひょんなことから滞在先の教区長が取り仕切る新年を迎えるための記念すべき鳴鐘に参加することになる。そして鳴鐘の儀から数か月後、再度鳴らされた死者を送る九告鐘(ナイン・テイラーズ)と共に新たな事件が波乱の幕開けを告げたのだった。

 

 

   まず序盤から転座鳴鐘術という不可思議な単語が出てくるため少し身構えてしまいますし、巻末にある鳴鐘術用語小辞典なる補足もそれに拍車をかけているように思えます。私も最初は、聞いたことの無い用語が出てくるたびに該当箇所を参考にし読み進めていたのですが、あまりにテンポが悪くただでさえ登場人物や物語の展開が多いだけにこれはダメだと、諦めてしまいました。

   そこで、私が転座鳴鐘術を完璧にとまではいかなくても、イメージし易くなった動画を載せておこうと思います。

The Craft of Bellringing - YouTubem.youtube.com

 

Westminster Abbey bells on the Royal Wedding day (29-04-2011) - YouTubem.youtube.com

 

   これで少なくとも“追い”や“順”“先手”といった単語は、なんとなくこういうことなんだろうと見当をつけることはできました。

   セイヤーズファンの一人として、本当であれば完璧に理解したうえで読みたいのは山々なのですが、どうしても頭の限界という問題もあります。これが厨二心くすぐる「天座瞑翔拳の秘伝奥義“奏鳴”」とかならおおっ!と思うのですが、実際には「追いより呼び出し、中、入って五で出、本、中、間違え、本、中、そして追いへ呼び込む」とかになってくるので、かなりしんどいです。転座鳴鐘術については、これくらいにしておきます。なんか書き始めるとキリがない気がする。

 

   本書の特徴の一つである、謎の多様性と、それらが一つの要素を中心に構成され、さらには一か所に収束していく様は、今までのセイヤーズの作品の中でもその規模・内容ともに随一のものでしょう。また、教会という神聖な場所に似つかわしくない怪奇描写にも力が入っておりセイヤーズの新たな側面を感じ取ることができます。

 

   先ほど「謎の多様性」と述べましたが、単純にいろんな謎があるという意味ではもちろんありません。

   異なる性質の謎が一つの群(『ナイン・テイラーズ』)の中に存在することによって、推理小説における変化と発展または変革を成しうる多様性という意味です。だからこそ、本作を読み終えて一般的に謎解きの瞬間に感じるカタルシスというものを、そう強く感じない理由もわかるでしょう。

   以下に大まかなものを列挙します。

   身元不明の遺体、死因、動機、失われた首飾り、不可解な行動をとる登場人物、謎のフランス人etc...

   これらの謎は一つひとつの手がかりが一人の犯人ないしは一つの真相を指し示す類のものではなく、それらの謎が引き起こす相互作用こそが、ある一つの謎(もちろん最終章で明かされるもの)をそこまで重要な謎と認知させない特殊なトリックとなっているのではないでしょうか。少しこじつけのような気もしますが、少なくとも私はその謎が最重要だとは気づきもせず、その他の謎にばかり目が行ってしまい、謎の誤認トリックに見事に引っかかりました。特にキャラクター描写に長けたセイヤーズ女史の作品に在って、怪しい人物を探すことにばかり集中してしまっていたのでしょう。

 

   もしこれから本作に挑戦し、謎を暴いてやろうという猛者がいれば、ひとつ「謎の多様性」というキーワードを胸に、客観的に俯瞰で謎を捉えることをおススメしたいです。

   何がこのミステリに中心となっているのか、見極める目を試される一作となっています。

 

※ちなみに、なにが中心かは解説の一行目に書かれているので念のためご注意を。

 

 

では!