シャーロック・ホームズ最後の挨拶【感想】アーサー・コナン・ドイル

発表年:1893〜1917年

作者:アーサー・コナン・ドイル

シリーズ:シャーロック・ホームズ4

 

中身は、1893年から1917年の20年以上もの間に書かれた短編たちが集まっているおかげで、今まで以上にバリエーションに富んだ短編集となっています。ちなみに、本ブログでは新潮文庫の延原版をもとに感想を書くのでお知りおきください。

 

 

まずは『ウィステリア荘』いかにもホームズらしい作品というか展開。残念ながらそれ以上も以下もないか。

 

続いて『ボール箱』は、1893年に発表されているが、“不倫”がテーマの一つになっていることから、当時の倫理観とそぐわないと考えたドイルによって短編集『~思い出』からは省略されています。

しかし、それからたった24年で、イギリスの倫理観は“不倫”を受け入れるように変化してしまったと考えると少し悲しい気も…

謎の提示は魅力的で少々怪奇の匂いもするのですが、解決はややあっさり。

 

続いて『赤い輪

実在のピンカートン探偵社の探偵が登場したり、暗号を解読したりと楽しみは多々あるのですが、事件背景が(ホームズ作品の中では)ありきたりなようにも思えます。

 

ブルース・パティントン設計書』は、また盗まれた設計書を探してくれ系だろうと思ったら、盗まれた設計書を探してくれでした。

ただ依頼者がマイクロフトで、殺人も絡んでくると、今までとは一風変わった盗難事件となります。ハウダニットも十分効果的だし、政府関係の事件だけあって、結末部の洒落た落し方然りバランスのとれた良作です。

 

瀕死の探偵

これはとにかく読み物として面白い作品です。

ワトスンに対する問答もユーモアたっぷりだし、結末が読み易いだけに、いつ、どのタイミングで、とハラハラしながら読むことができる反面、複雑なトリックはないので物足りない感はあります。

 

フランシス・カーファクス姫の失踪』は結末部のホームズの言葉にぐっときます。

以下引用

いかに優秀な頭脳も、ときに光輝を一時喪失することもある―そういう失敗は誰にでもあるもので、その錯誤を自覚して、是正する人がえらいのだ。

 

うーん、まぁ超人に「失敗から学べ」と言われても説得力に欠けるっちゃあ欠けるんですけど、それでもいい台詞であることに変わりはありません。

 

そして『悪魔の足』は、メソッドに納得できるかが鍵。納得できなくても、ホームズとワトスンの掛け合いは絶妙で微笑ましいものがあります。

 

最後の挨拶』は、ホームズ作品の中でも異彩を放つスパイものの短編。

なんといっても今までの短編集で初めてワトスンの手記という形ではない三人称で書かれた短編であり、のっけから違和感しかない(笑)のが特徴です。

ただし、作中の年代が1914年の8月、そして発表されたのは1917年、つまり第一次世界大戦(1914年8月イギリス参戦~1918年収束に向かう)まっただ中だと考えると、締めの台詞には胸打たれるものがあるのも事実。

決して予感して書いたものではないがゆえに、戦争を身近に体験したドイルの悲痛な叫びがホームズの台詞となって、読者に伝わってきます。

ホームズシリーズの構成上、完結的な作品だからこそ、もう少し明るいホームズも読んでみたかった気がするのですが……ともあれ、この陰のある雰囲気もまた良さの一つでもあるのでしょう。

 

 

では!