闇からの声【感想】イーデン・フィルポッツ

発表年:1925年

作者:イーデン・フィルポッツ

シリーズ:ノンシリーズ


まずはあらすじ

引退した名刑事リングローズの耳に連夜聞こえる、幼い子どもの悲鳴と哀願。調査の結果、1年前に亡くなった男の子の幽霊と思われるその声は、リングローズの刑事魂に再び火をつけた。浮き彫りになる過去の卑劣な犯罪と狡猾な犯人にリングローズはどう立ち向かうのか。

 

犯人探しを中心に据えたミステリとは一味違いますが、好人物リングローズの推理の過程が細かに描かれ、特に終盤の犯人との一騎打ちは、スリリングでサスペンスに満ちています

怪奇要素は中盤以降、あってないようなものですが、オチはしっかりついており、収束後の読了感も良いです。

 

見どころは前述のリングローズと犯人の対峙なのですが、そこに至る過程(特に犯人目線)がとても良く書かれています。犯人目線で書かれる倒叙ミステリなどは、もちろん犯人の心理や犯行の過程などが緻密に描かれていて当然なのですが、本作は倒叙ではない以上、ある程度犯人は伏せられています。

しかし、物語の進行に応じ、リングローズの疑いは確固たるものに変わっていき、それを否定する証拠もないため、犯人は自ずと読者の前に明らかになってくるように思えます。

終盤、探偵以外のある人物の視点で物語が進むようになってからは、クライマックスに向けて勢いが一気に増すでしょう。

 

過去の事件に関して言えば、トリックは明白で犯人も明瞭、推理小説のエッセンスとしては少々弱い面もあるため、どちらかといえば探偵小説やサスペンス小説にジャンル分けされがちな本作ですが、視点を変えてみると、魅力的な犯人によって用意された心理的トリックの謎を解き明かすという点においては、ミステリの範疇には収まっているのではないでしようか。

 

終盤の劇的な展開は、たしかに予想がつくものかもしれません。しかし、探偵以外の視点で書かれた描写があるからこそ、ほんの少し、意識の片隅にでも犯人の人間らしさが刷り込まれ、読者は騙されるのです。少なくとも私は騙されました。

 

扱われている題材の古めかしさは否めませんが、それでもなお本作に読ませる力があるのは、イーデン・フィルポッツの卓越したストーリーテリングによるものだと言わざるを得ません。

一つ苦言を呈するなら、関係者の死についてです。たしかに不慮の死ではあったのだろうが、リングローズに全くの後悔の念がないのはどうなのかな?と。

犯罪者には当然の報いなのかもしれませんが、展開的には違うやりかたもあったのではないかとも思います。例えば、逃亡中の事故とか。まぁ残された者にとっては、あの結末の方が良かった気もするので、苦言とまではいかないんですけど。

 

では!