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華麗な帰還で彼の偉大さ痛感【感想】『シャーロック・ホームズの帰還』アーサー・コナン・ドイル

 

シャーロック・ホームズの帰還 (新潮文庫)

シャーロック・ホームズの帰還 (新潮文庫)

 

発表年:1905年

作者:アーサー・コナン・ドイル

シリーズ:シャーロック・ホームズ6

 

   1893年の『シャーロック・ホームズの思い出』で惜しむらくもこの世を去ったシャーロック・ホームズですが、10年の歳月を経て奇跡の生還を果たします。

   本書は1903年から1904年にかけてストランド・マガジンに連載された13の短編を集めた短編集です。いつも通り、新潮文庫の延原版ではページの都合上『ノーウッドの建築業者』『三人の学生』『スリークォーター失踪』が省略されており、それらはいずれ『シャーロック・ホームズの叡智』で紹介します。


   コナン・ドイルはホームズの復活に対してはかなり消極的だったと伝えられています。彼自身が新鮮なプロットを追求することにうんざりしていたことや、ホームズ作品が注目を浴びすぎて、自分の他の作品が埋もれてしまっていることなどが要因らしいですね。しかし、(失礼だけど)30弱の作品で「うんざり」は正直読者としては納得しがたかったのではないでしょうか。また、コナン・ドイルも心のどこかでホームズの復活を望んでいたのでは?と思います。

   たしかに『思い出』の次に発表された長編『バスカヴィル家の犬』は、時系列で言うと『思い出』より前に当たるため、実質的な復活ではありませんでしたが、それもコナン・ドイルホームズ復活に向けてのトライアルだったのではないでしょうか。結果的に『バスカヴィル家の犬』は好評を博し、読者によるさらなるホームズ復活の期待を煽ったため、本作で堂々の『帰還』を果たすのです。

 


   本作でおススメの作品は、まず『踊る人形』。換字暗号とも呼ばれる古典暗号とその解読がテーマで、厨二心擽るテーマとなっています。

 

   続いて『犯人は二人』。原題は「チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン」で、ロンドン一の恐喝王ミルヴァートンとホームズの対決を描いています。ホームズの卓越した頭脳をもってしても、強硬案でしか対応できなかった唯一の案件でもあることから興味深いです。

 

   お次は『金縁の鼻眼鏡』。たった一つの手がかりから、論理的に犯人を推察し、残された痕跡から謎を解明してしまうホームズの鮮やかな手腕が堪能できます。しかし突拍子もない推理劇ではなく、理路整然と筋道立てて語られる解決は、非の打ちどころがなく、見事なプロットで仕上げられています。本作では、一番出来のいい作品ではないかと思います。

 

そして『第二の汚点』。この作品は他のホームズものの短編の中でも何度か触れられている作品であり、知名度も高い作品です。真相の究明という点では、及第点ですが、ホームズの機転の利いたアドリブは、見事としか言いようがありません。

 

   謎解きの要素もさることながら、コナン・ドイルによって探偵小説の完成形を見たとも言える本作『帰還』は、ただ単にシャーロック・ホームズの帰還に終わることなく、その後20年以上もの間第一線で活躍します。

   最後のホームズ作品が書かれた1927年には、既にクリスティやセイヤーズ、バークリーら精鋭たちが群雄割拠する大推理小説時代に突入しており、1904年と言えばまだ、怪盗紳士ルパンでさえ誕生していません。稀代の怪盗や蝙蝠傘を抱えた小さな神父さえ登場していないこの時代に、シャーロック・ホームズは一度表舞台から退き、そして再び華々しく登場しています。改めて彼の偉大さを痛感させられた一作でした。

 

では!