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僕の猫舎

映画・小説(主にミステリ)の感想を綴るブログです。

赤毛のレドメイン家【感想・雑記】ーイーデン・フィルポッツ

イーデン・フィルポッツ 小説 ミステリ

5年ほど前、イタリア旅行に行った時、日本人だからってナメられないように、と気合を入れて金髪にした日のことを思い出しました。

 

今なら胸を張って「バカヤロウ、日本男児ならチョンマゲでいけ」とアドバイスできます……寒いですね冬がやってきたみたいです。

 

さておき、今では日本人の染髪も当たり前になってしまい、巷では黒髪の美少女なんかは絶滅したのでは、と囁かれています。

 

 

今回は、1922年にイーデン・フィルポッツによって書かれた長編推理小説を紹介します。

古典推理小説の中でも特に高名な作品であることに違いありません。本作は、江戸川乱歩によりベスト10の1位に掲げられた実績も相まって、日本での知名度は高く、ミステリ愛好家ならば一読すべき名作でもあります。

私が読んだことのある、同作家の書いた推理小説は、「だれがコマドリを殺したか?」と、ハリントン・ヘクスト名義で書かれた「テンプラー家の惨劇」の2作品です。前者は恋愛の要素が色濃く、事件の発起までが冗長で、およそ高水準の推理小説とは言えませんでした。後者は、細緻を極めた宗教観や思想論の応酬が見事ですが、決定的にアンフェアな記述が汚点となって残っています。

一方、本作はこれらよりも前に発表されており、簡単に言えば、2作品を併せたような作品でした。しかし、決して、恋愛描写がだらだらと続き、宗教・思想論議が長々と交わされたうえに、アンフェアな記述もあるという駄作の類ではありません。恋愛や素晴らしい風光描写と、謎を孕む殺人が絶妙にブレンドされながらも冗漫にはならず、且つフェアプレイ精神が尊重されています。言わば、本作を2分割し、薄めた作品が「だれが~」と「テンプラー~」だったのです。言い添えておきますが、2作品が水準以下の駄作だと言っているわけではありません。それぞれが独自の魅力を放つ佳作ではあります。

 

本作の犯人については、中盤以降、読者の目にも明らかになっていきますが、真犯人の正体と動機については詳細まで気づく読者は多くないのではないでしょうか?

作中の探偵をして「まれにみる悪人だった」と言わしめるほどの犯人でも、些細なミスや自惚れから身の破滅を迎えることは、推理小説の王道と言える展開ですが、それでも飽き飽きすることがないのは、フィルポッツの人物造形に関する才能が遺憾なく発揮されている証拠です。余談ですが、私は「テンプラー家の惨劇」の解説で、本作の探偵役?マーク・ブレンドンに関する記述をチラっと読んでしまい、余計な先入観を抱いてしまったため、本作を最大限に楽しむことができなかったと後悔しています。未だ読んでいない読者は、まず本作から挑戦することをおススメします。

また、フィルポッツは自作の解説者に恵まれないのか、本作の解説にもフィルポッツの他の作品や、コナン・ドイルの作品についても少し触れられている為、気を付けた方が良いです。

 

本作には、心に残る名場面が多いことも紹介しておいた方が良いでしょう。

 

もう一人の探偵ピーター・ガンズのマークに対する示唆に富んだ助言。そして素直な心で受け止めるマーク。この構図は読者に清々しさと心地よさを感じさせ、物語に引き込むに違いありません。また、マークが九死に一生を得たエピソードは、文字通り手に汗握る展開で、私も一時絶望感を味わいました。

こうした文学的な魅力は語りつくされていると思うので、もう一つネタバレにならない程度に本作のキーワードを発表しておきます。それは“瞳”です。実は“瞳”に充てる漢字はもう一つあり、“眸”と書くのをご存じですか?

従来“瞳”とは、目の黒い部分、いわゆる瞳孔を指します。しかし“眸”の意味するものは、瞳孔部分だけではなく、目玉そのものなのです。これが何を意味するのか、それは今一度読んで確かめてほしいです。決して犯人に繋がる直接的なヒントではないですが、読み終えた時、そして該当の箇所を読み返して、初めて真の意味に気付くでしょう。この点は訳者の妙技とも言えるかもしれませんが、二つの“ひとみ”が明確に区別されているとするなら、フィルポッツの推理小説に対する熱意と情熱の深さもうかがえます。

マークがワトスン役だったという構成上のトリックも含め、これが60歳を超える文豪から生み出されたのです。称賛と敬意を表するとともに、いつかエディ・レッドメイン(アカデミー主演男優賞受賞者)に実写化してもらい、再び全世界中の人々に注目される作品になることを熱望してやみません。

赤毛のレドメイン家 (創元推理文庫 111-1)

赤毛のレドメイン家 (創元推理文庫 111-1)

 

 

 

では!