牧師館の殺人【感想】アガサ・クリスティ

発表年:1930年

作者:アガサ・クリスティ

シリーズ:ミス・マープル1

 

初ミス・マープルです。 

架空の村セント・メアリ・ミードに住む牧師のクレメントが語り手になり、村で起こる、ある殺人事件を紐解きます。

 

物語の大半は、クレメント牧師を中心に話が進みます。

まず、驚いたのは、マープルが出てこない!ということです。そのため、今まで何作か連続でポアロ作品を読んでいた私は、少し物足りない印象を受けました。

 

彼女の人物像については、冒頭で、

「村じゅうで一番意地の悪いひと」

とかなり酷い言われようですが、クレメント牧師はある一点において彼女を認めています。それは人間性の洞察力の高さです。

マープルいわく人間は××類、××目、××科まで細かく分類でき、彼女にしてみれば人間性を辿って行くことで、人の行動心理は全て把握できるのです。

 

クレメントは作中で腑に落ちない言動や、不可解な現象を見聞きしますが、それがいったい何を意味するのか、正確なところまで理解できません。

一方彼女は、自宅や庭から人々を観察し、頭の中で彼らを分類し、人間性を観察することで、彼らの行動とその結果との相違を見つけ出し推理していきます。

 

今作の犯人の意外性はもちろん、犯人までたどり着くまでのプロットにも、一貫して彼女の人間性の観察が役立っていることがわかりました。

作中で疑わしき人物が何人か出てきますが、それもただの作者のミスリードではなく、全て相応の根拠が理路整然と整理されており、後味も良いです。

 

クリスティ作品の代表的な探偵としてあげられるマープルですが、派手で目立ちたがり屋なポアロとは対照的に、地味で控えめな態度でありながら、悪を憎み、弱者には優しく手を差し伸べる女神のような立ち位置なのではないかと思いました。

それがマープルものの魅力なのではないでしょうか?

とはいえマープル作品に馴染むのには、もう少し時間がかかりそうです。

 

では!